【2010年8月10日(火)】 旅の18日目
大阪府豊中市の服部緑地内に『日本民家集落博物館』があります。
日本各地から古民家を移築復元してあります。「日本で最初の野外博物館」でもあるようです。
ここには奄美の高倉も展示されています。喜界島の高倉を思い出しながら、もう一度見てみようと思い、博物館を目指しました。
入場して、さっそく高倉を見に行きました。
喜界島で学んできた高倉の構造の基本的法則と、照らし合わせてみます。
4本ある丸柱の足元を貫と楔で固めます。柱のうち2本の頂部に平らな梁(ムルキ)を渡し、それに直行して大根太(ココノツギ)を9本乗せます。
この上に小屋組みが乗りますが、それに関してはまだ理解が深まっていません。(僕は高倉に限らず、木造の屋根の架け方への理解が、今はまだ浅いようです)
下から見上げると、ココノツギが反り上がるような形に加工されているのが印象的です。特に両端の2本は、反りが大きく作られています。
倉庫内への入り口は1か所です。主に穀類などの食料が貯蔵されたということです。床の一部を網代に編んで通風を取っています。
出入りは一本梯子で行ないます。喜界島の友人はたしかこう言っていました。「いちどこの一本梯子を上り下りしてみたが、慣れないとたいへん怖かった」と。
高倉の足元の空間は、人々が集い休む場所としても利用されたようです。
そして博物館でもう一棟、印象的だったのが、「摂津能勢の民家」(大阪府)です。
僕が建物に入って感じたのが、なぜか「モダンさ」なのです。
モダンさの正体は、平面を長手に分割して土間を設けたことにあるようです。これは大阪と京都の境界、摂津や丹波の地方に独特の平面形式だそうです。
平面を短手で分割して半分を土間、もう半分を田の字型の間取りで座敷などにする古民家は、これまで何度も見てきましたが、「摂津能勢の民家」はそれとはかなり違う印象です。
建物の規模が小さいことも関係しているかもしれませんが、公的な部屋から私的な部屋までのグラデーションが、土間に沿って並び、とても明快かつ機能的な気がします。
一般的な古民家の私的空間である「なんど」や「ねま」は、土間から一番遠い位置にあり、また他の部屋を通らずには行けないような場合が多いです。「なんど」には闇の奥を覗き込むような暗さ・妖しさを感じます。(そこがまた古民家の魅力の一つでもあるのですが)
それに比べ、摂津能勢の民家の「なんど」は、比喩的な意味でかなり「風通しが良い」位置にあるように思えます。もっとも、この家の「なんど」には窓が作られていないようです。開口部は入り口の引き戸しかありません。通風はランマ部と軒天のすき間から取っています。「なんど」の平面上の位置づけには明瞭さを感じますが、実際の空間としては、かなり暗いもののようです。
だいどこの一角には炉が切られています。土間側からも利用できて、使い勝手のよさそうな位置にあります。良く考えられていると思いました。
入り口の横には縁側があります。独立してあるというより縁側が建物に組み込まれている印象で、これも計画的なモダンさを感じました。
流しです。僕は古民家の水廻りの開口部や排水の仕方を観察するのが大好きです。
ガイドさんと仲良くなって、資料をいろいろ見せてもらいました。「摂津能勢の民家」の元の所有者(泉さんとおっしゃいます)は、今でも正月の時季には博物館に来て、能勢地方の正月飾りを作り、民家に供えていかれるそうです。
ガイドさんによる正月飾りのスケッチや、独自の研究資料を見せていただきました。
日本民家集落博物館にはこの2棟の他にも、古民家が移築保存されています。全国のものがありますが、西日本の古民家が充実しているのが特徴のようです。建物名だけ書いておきます。
■飛騨白川の民家(岐阜県) ■日向椎葉の民家(宮崎県)
■信濃秋山の民家(長野県) ■大和十津川の民家(奈良県)
■南部の民家(岩手県) ■越前敦賀の民家(福井県)
■小豆島の農村歌舞伎舞台(香川県)
■河内布施の長屋門(大阪府) ■堂島の米蔵(大阪府)
■堺の風車(大阪府) ■北河内の茶室(大阪府)
この他に、木製の刳り舟の展示や、民具の展示館もあります。
さてその後は大阪駅に戻り、日本海側まで出る電車に乗りました。
敦賀と福井で乗り換えて、金沢に着きました。今日はここで泊まります。明日は金沢で過ごした後、いよいよ長岡に帰ります。
旅の最後の夜ということで、あまりお金のことを考えずに飲み食いしようと思いました。金沢の居酒屋で、豪儀に食事しました。一番おいしかったのが、金時草(きんじそう)のおひたし。
居酒屋のご主人に「北陸新幹線の開通を楽しみにされているんじゃないですか」と聞いたら、「それは逆。首都圏から日帰り圏内になるので、ビジネス客もみな日帰りする。そうするとウチのような飲食業は、あがったりですよ。」と言われたことを、よく覚えています。
(旅に関する記事は、ラベル「2010年の夏旅」をご覧ください。)